JR目黒駅から歩いて7分、東京メトロ白金台駅から歩いて6分のところに都心とは思えないような安らぎの空間があります。旧朝香宮邸、現在の東京都庭園美術館です。
ここは1933年(昭和8年)に皇族だった朝香宮家の邸宅として建てられたものでした。当時としては珍しいアール・デコ調のデザイン、建築様式の粋を尽くした洋風の館だったのです。
朝香宮家が退去したあとも、さまざまな変遷を経ながらその当時のようすを現在に語り継いでいるところが素晴らしいですね。
企画展「旧朝香宮邸を読み解くAtoZ」を見てきたのですが、アール・デコ調様式の邸宅の素晴らしさはもちろん、庭園も充分楽しめました。そこで今回は東京都庭園美術館の特徴や魅力、雰囲気をご紹介していきたいと思います。
東京都庭園美術館の歴史
まずは東京都庭園美術館の歴史を旧朝香宮邸から現在に至るまで簡単に見ていきましょう。
旧朝香宮邸
朝香宮家は久邇宮朝彦親王の第8王子鳩彦王が1906年(明治39)に創立した宮家。
現在の自然教育園一帯が「白金御料地」と呼ばれていた。
白金御料地の南西部(現在の東京都庭園美術館の敷地)が朝香宮家に譲渡される。
朝香宮鳩彦王が陸軍大学校勤務中の1922年(大正11年)からフランスに留学する。しかし現地で交通事故に遭い、急きょ看護のため訪れた允子内親王とともに1925年(大正14年)まで長期滞在した。
朝香宮邸の誕生のきっかけは、朝香宮ご夫妻がパリ滞在中の1925年に訪ねた「アール・デコ博覧会」だった。
直線的で幾何学模様をあしらった洒落たデザインや芸術性に魅了されたご夫妻は、東京・白金にアール・デコ様式の邸宅の建設を計画し、帰国後、着工に取り組む。
アール・デコ調の建築にするため、アンリ・ラパンに主要な部屋の内装・デザインを依頼し、ルネ・ラリック他2人、計4人に室内の照明やガラスの扉などのデザインを依頼する。宮内省内匠寮に設計と全体の仕上げが任された。
GHQの進駐と皇室典範の改正で朝香宮家が皇籍を離脱したため退去する。鳩彦王は熱海に新居を構える。
朝香宮家退去後は政府が借り受ける。当時の首相・吉田茂は外相兼任だったため、在任期間中の1947年から1954年までの8年間は事実上首相官邸として使用した。
諸外国の元首など要人を迎え入れる公館として利用される。
1974年から白金プリンス迎賓館として一般に開かれた結婚式場、催事場として利用される。
東京都に庭園と建物が無料で譲渡される。
美術館として再出発
東京都では第1号の選出となった
約2年かけて修復を行い、本館の裏に展示室を備えた新館を設置。
建物の魅力
1933年に建てられた本館(旧朝香宮邸)、2014年に改築された新館の魅力と見どころをざっと見てまいりましょう。
アール・デコ調の建築
建物の最大の魅力は、フランスのアール・デコ全盛期の魅力を結集した本館の内装やデザイン、調度品などでしょう。
それぞれのお部屋の華美になりすぎない洗練された美しさや、照明や窓などのシンプルで優雅なフォルムは心をひきつけてやみません……。そして日本伝統の高度な職人芸も設計の随所に生かされています。
和洋折衷ではありませんが、朝香宮邸は夫妻の情熱や、携わったデザイナー、職人たちの創造と技術の結晶が高い次元で融合した芸術といっても決して過言ではないでしょう。
竣工から90年以上が経ちますが、保存状態も良好で、大地震でも倒壊しないように基本構造や壁の厚さにも相当にこだわっているようです。
穏やかな陽射しと温もり
庭園美術館は四方が緑に囲まれているため、季節によってさまざまな表情を見せてくれます。
特に窓から見える木々は季節ごとに色あいが変わり、目を楽しませてくれるでしょう。また窓から差し込む光は、室内の落ち着いた内装や調度品の質感と絶妙のコントラストを生み、温もり感を伝えてくれます。
窓から見える風景と室内のモダンな空間との対比もなかなか味わい深いものがあります。美しい天井、床材やカーテン越しに伝わる穏やかな光は、きっとひとときの癒やしを与えてくれるでしょう。
モダン建築の新館
芝庭に面したモダンな出で立ちと開放的な全面ガラスが印象的な新館。現在ある建物は2014年に完成したものです。
晴れた日は屋外の木々を眺めながら、時間を気にせずくつろぎタイムを持つのもオススメです。また庭に面してレストランやカフェがあるので、気分転換にはもってこいです。
時間帯や季節によっては、木漏れ日が心をなごませてくれるでしょう。ゆっくりと食事をしたり休憩をとるのもいいかもしれませんね。
建物の構造はとてもシンプルで出入りがしやすいので平日はもちろん、土日、祝日でもさほど混雑を気にせず楽しめるのもいい感じです。
庭園の魅力
庭園は、桜や紅葉など四季の変化を楽しめます。
芝庭や西洋庭園などは特別に見るものはありませんが、何より時間を忘れてゆったりくつろいだり、散策するのに適しているかもしれません。
日本庭園
日本庭園はゆったりと泳ぐ鯉に出会える池、周囲に築山や茶室があります。奥のほうにある築山や橋へは小道を通って向かいますが、ちょっとした風情がありますね。
春は新緑の木々が光に映えて、緑がまばゆく感じるとときがあり、秋の燃えあがるような紅葉も最高の癒やしとなることでしょう。橋の上に立っていると都心にいることも忘れてしまいそうです。
茶室(光華)
茶室は日本庭園の中にあり、本格的な和の佇まいが印象的です。
本館の仕様のように、ここも天井が高く、窓がたくさんあるため、開放的で明るい雰囲気を醸し出しています。茶会もたびたび開催されています。窓から見える風景との絶妙な調和が美しく、心をなごませてくれることでしょう。
芝庭・西洋庭園
芝庭は本館に面した一帯にあり、シートをひいて話をするご年配の夫婦や、ピクニック気分で食事をする家族連れなど、くつろぎと憩いの場になっていますね。
西洋庭園はさらに肩の張らない自由な空気が流れていて、より開放的でリラックスした時間を持ちたい方にはオススメかもしれません。
庭園美術館の楽しみかた
アール・デコの魅力を堪能
本館は建物全体の扉や床、天井、照明、調度品など、見渡す限りアール・デコ様式のデザインが詰まっていて壮観です。
まさに建物そのものがアール・デコの魅力が結集した芸術の殿堂といえるでしょう。すでに100年ほど前になるデザインの数々ですが、まったく古さを感じさせません。
それはむやみに流行を追わず、過度な装飾に流されず、上品で洗練された感性があらゆるところに息づいているからなのでしょう。
過去と現在を結びつける
館内入場が可能な企画展は特別な機会ですよね。
そのとき、「実際に自分がここに住んでみたら、どのような生活をするだろうか」のようにイメージを思い浮かべながら見るのも楽しいでしょう。朝香宮家のライフスタイルや当時の趣向、考えかたに想いを馳せるのもいいかもしれません。
「過去と現在」、「人と住まい」という観点で見つめるのも面白いかもですね。
色と素材、模様やデザインなどについても学びがあるかもしれないし、過去と現在を結びつける価値を見いだせるかもしれないですね。
イベントに参加
東京都庭園美術館では不定期でイベントが開催されています。公式サイトでスケジュールを確認して参加したいイベントがあれば、それに合わせて来園するのもいいかもしれません!
記念イベント・ガーデンコンサート
クラシックのガーデンコンサートも不定期で開催されています。基本的にコンサート公演中の撮影や録画、録音はNGとのこと。2023年は40周年を記念して屋外で「ジャズとダンスの祝宴マチネ」も開催されました。
茶室行事
茶室行事もたびたび開催されています。本格的な茶会体験(事前申込制・有料)をはじめとして、こども茶会、茶室の特別公開、トークイベントなどが主要なものです。和の心を味わう貴重な体験となるかもしれませんね。
昼食や休憩などで入園
芝庭、日本庭園、西洋庭園、茶室を含めた屋外は入場料が一律200円です。
晴れた日や桜が見どころのシーズン、紅葉が美しい季節などは芝庭や西洋庭園などでお弁当を広げたり、庭園の木々や花などを撮影したり、思い思いに楽しむのもいいでしょう。
アクセス・概要
住所 | 東京都港区白金台5丁目21−9 |
アクセス | ②東急目黒線 目黒駅正面口 徒歩7分 ③都営三田線・東京メトロ南北線 白金台駅1番出口 徒歩6分 | ①JR山手線目黒駅東口 徒歩7分
営業時間 | 10:00〜18 : 00(17:30最終入館) |
休館日 | 月曜日 |
入場料 | ◯大学生・専門学校生160円 (団体120円) ◯中学生・高校生100円(団体80円) ◯65歳以上100円(団体80円) ※上記料金すべて庭園のみ ◯建物・館内の入場料金 (展覧会により変化します) | ◯一般200円(団体160円)
HP | 東京都庭園美術館 |
TEL | 050-5541-8600 |
東京都庭園美術館 |