「7時間も寝たはずなのに、眠くてたまらん…」「昼食後は知らないうちにウトウトする」こんなふうに嘆く方は決して少なくないと思います。
しっかり睡眠をとったはずなのに、不意に睡魔に襲われたり、午後になると眠くてたまらないという方も多いのではないでしょうか。
日中に激しい眠気が襲ってきたりするのは、眠りが浅いだけでなく、脳がSOSサインを出しているからだといわれます。
疲れた脳をリフレッシュさせ、仕事の効率を上げるには仮眠が有効ともいわれたりしますね。
最近は、パワーナップ(積極的仮眠)の効果に注目し、実施する企業も急増しています。それでは昨今の睡眠事情とともに、仮眠のメリットについて見てまいりましょう。
睡眠負債を抱える現代人
最近メディアなどで取り沙汰されることの多い『睡眠負債』。よく耳にするけど実態はわからないという方がほとんどではないでしょうか。まずは睡眠負債について見ていきましょう。
睡眠負債とは?
『睡眠負債』とは、日頃から睡眠不足の状態が続き、それが蓄積されることで心身に潜在的な悪影響が出る状態のことです。
もちろん「睡眠時間はどれ位とればいいの?」という素朴な疑問もあるでしょう……。でも適正睡眠時間は人によってまちまちだし、これでいいと決めつけられるものではありません。
ただし一般的には6.5時間から7時間程度が良質な睡眠がとれる枠とされています。
ここで一番厄介なのは自分では眠りがとれていると思いこんでいて、睡眠負債という自覚がないことですよね。
上の図のように日本人の働き盛り世代の40代を対象にした調査では、男女ともに半数ほどが睡眠時間が6時間以下という結果が出ています。
本来は睡眠時間を7時間とるべき人が、仮に5時間しか眠れていない場合、日を重ねるごとに少しずつ『睡眠負債』を積み重ねることになってしまうのです。
眠りの慢性的な不足
睡眠時間が足りてなかったり、削ったりすると、知らない間に生活や仕事に深刻な影響を及ぼします。
それは作業を続ける精度が低下しているだけでなく、それを整理し司る脳のパフォーマンスや免疫機能が著しく低下しているからなのです。
それを端的に表しているのが下の図です。
睡眠時間と脳の反応速度の関係
これを見ると6時間睡眠を14日間続けると48時間徹夜したのと同程度の認知機能になるという結果がでています。
つまり、6時間睡眠を10日間続けただけで、24時間徹夜したのと同程度の認知機能になる…というある意味恐ろしいデータなのです。
睡眠不足がもたらすつけ
睡眠を削ったり、睡眠時間が足りてないと、集中力、注意力、判断力、記憶力、気分、感情など…、本来は正常に機能するはずのあらゆる脳機能が低下するといわれています。
多くの臨床試験のデータをみると、睡眠不足の人は、人間が本来持っている能力の少なくとも2割から3割減の状態で仕事をしていることが判明しています。
人間関係がギクシャクすることも
眠りが充分でないと、人とのコミュニケーションをとるのが億劫になるのも確かです。
人に対して意識を向ける、気持ちが寄り添えなくなる、寄り添えるゆとりなどがなくなるからです。
また、不機嫌になったり、情緒不安定になりやすい傾向があるため、同僚や上司などの信頼を損ねたり、些細なことでトラブルを起こすもとにもなりかねません。
睡眠のつけは人間関係がギクシャクする原因にもなりやすいのです。
仮眠は多忙な人の心身の糧
今や重要な仕事をする人や多忙な人こそ、疲労を溜め込まないで、脳をリセットした状態で仕事のパフォーマンスをあげることが求められています。
しかし一日の時間は限られていますね。そこで脳の情報を整理し、心身をリセットするためには仮眠を入れるという発想が出てくるわけです。
現代は情報化時代。そして何かと時間に追われる忙しい時代だからこそ、仮眠の価値を見つめ直す時にきているのかもしれませんね。
人間の集中力には限界がある
仮にオフィスで作業をするとしましょう。デスクワークで朝の9時30分から夕方18時まで勤務だとすると、昼休みを除いて約8時間以上の労働になります。
この間、はたしてどれほどの時間、意識を集中して作業に取り組めるのでしょうか? 密度の濃い作業であればあるほど、たびたび休憩を入れて取り組まないと集中するのは難しいでしょう。
おそらく集中できる時間もせいぜい30分〜40分くらいではないでしょうか。
「老人と海」の作家アーネスト・ヘミングウェイは、こういいます。
「最もよいのは、順調に進んでいる時、次にどうなるかがわかっている時に、ペンを置くことだ。毎日そうすれば(中略)行き詰まることはない」
彼は集中力を持続する難しさを感じていて、マンネリに陥らないように休養をとることを日課としていたのでしょう……。
作業を続けることが美徳ではなく、作業の質を上げるには、仮眠などの的確な休養をとリながら工夫して取り組むことが賢明な策といえるかもしれません。
仮眠はリセットと補充の時間
アップルで新製品を次々に発表して時代を席巻したスティーブ・ジョブズが、「昼寝ができない会社では働きたくない」と言ったことがありました。
これは仮眠というものが、精神面でも肉体的にもどれほど重要かを物語っているかのようですね……。
諸外国ではどうか分かりませんが、日本では仮眠は休むとかサボるという感覚があるようです……。しかし実情はまったく違いますね。
仮眠はマイナスや無ではなく、無から有を生み出すための大切な心身の補充時間でもあるのです。
仮眠の効果とは?
仮眠をすると、どんな効果が期待されるのでしょうか? 以下はさまざまな臨床試験などで確認されているおもな効果です。
リフレッシュできる
仮眠は疲れをとるだけでなく、気分を切り替えるリフレッシュ効果があります!
なんとなくスッキリしない、作業に前向きに取り組めない…。こんな重苦しい状況を回避させ、雑多な情報を整理してくれます。
仮眠をうまくとることで作業に対するモチベーションもグンと上がるのです!
閃きや発想の転換を促す
仮眠は創造性を高め、企画・発想力を生み出す下地にもなります。
日中の眠気は脳が疲れていることを表す休養サインです。脳機能や心身のパフォーマンスが低下していると、ありきたりな企画にとどまったり、斬新なアイデアや自由な発想が生まれにくくなります。
IT企業やエンタメ業界で積極的な仮眠が推奨されるのは、創造性や新鮮な発想が事業の根幹を支えていると認識されているからなのでしょう…。
集中力・作業効率を高める
眠くて何をやっているのか分からなくなるような状態…。こんなご経験はありませんか?
こんな時は集中力が著しく落ちていて、注意散漫になったり、初歩的なミスや重大な事故を招きかねない危うい状態です。勇気を持って休む、仮眠をとることが何よりも大切でしょう。
仮眠はあやふやになった脳の状態をリセットし、情報や記憶をしっかり刻み込む効果が期待できます!
病気を未然に防ぐ
昼の仮眠は認知症予防や心臓病などをはじめとする病気の抑止効果があり、健康によい影響を及ぼすという実験結果もあります。
2007年にアテネ大学のデミトリオス・トリホプロス博士が仮眠と心臓病発症との関係について調査を実地したところ、週に3回以上、30分ほどの仮眠で、心臓病で死亡するリスクが30%以上低下すると報告されています。
特に午後に仮眠をとると脳がリセットされ、身体の機能や血圧が安定するため、心臓病や脳梗塞、糖尿病などの悪化を未然に防ぐ効果があると考えられています。
効果的な方法とは?
どのようにしたら効果的に仮眠をとることができるのでしょうか?ここではその具体的な方法について考えていきます。
効果的な仮眠時間は?
仮眠に要する時間はせいぜい20~30分ですね。もちろん10〜20分でも構いません。
ただし30分以上になってしまうと、身体が熟睡モードに切り替わり、寝覚めが悪くなるだけでなく、かえって疲労感を残すことにもなってしまいます。
昼休み後の午後の時間をスッキリして作業に取り組むには、集中した短時間の睡眠がオススメです。
仮眠のベストな時間帯
仮眠の効果が高まる時間帯は、起きてから8時間後くらいとされています。
仮に6時に起きるとすれば、午後3時頃が仮眠にふさわしい時間となります。
ただし個人差があって、6時間後、7時間後が強烈に睡魔が襲ってくるという人もいますよね。総合的に見れば13時から16時の間くらいに休むのがベストでしょう!
当然、仕事との兼ね合いもあるでしょうし、休める時間に臨機応変に仮眠を摂るのがベストでしょう。
アロマオイルの使用
アロマオイルの使用も効果的です。
たとえばラベンダーは誰にでも使いやすく馴染みやすい定番の精油ですよね。アロマオイルをタオルやハンカチに浸したり、スプレーで香りを染みこませるのもいいでしょう。
またはアロマディフューザーをデスクの上に置いて常用にするのもいいかもしれません。
アロマの香りを利用すると気持ちが安らぎリラックスした気分で眠りに入っていけるでしょう。
アイマスクの装着
電球の下や周囲が明るいと、どうしても眠りを司るホルモン(メラトニン)の分泌が減少して、睡眠の質が下がってしまいます。
仮眠をとるときは、明るい窓際や電球の光の下ではなくリラックスできる場所を選び、アイマスクをつけると、スムーズに睡眠モードに入りやすくなります。
また、眠りを妨げやすいのが、PCのディスプレイの光や音です。できればスリープモードにするかシャットダウンしましょう。
横にならない
机に座ったままの状態で眠るのがオススメです。
人間の身体は正直なもので、一度横になってしまうと本格的な熟睡モード(副交感神経が完全に優位な状態)に入ってしまいます。これでは短時間でスッキリと目覚めることができません。
横にならないで机に伏した状態にするか、椅子の背もたれに寄りかかったり、クッションなどをうまく利用して仮眠をとりましょう。 首にある交感神経節が適度に刺激されるので、熟睡するのを防いでくれます。
自然音を低音量で聴きながら
波の音、雨がしとしと降る音、夏のヒグラシの音、鳥のさえずり……。
自然の中で聴かれるさまざまな音は私たちの心にすんなりと溶け込むし、安心して眠りに入れる要素が高いですね。
現在はSpotify、Amazon music、Apple Musicなどの音楽配信サービスでも自然音の配信がたくさん見つけられます。
心が癒やされる音を見つけて利用すると気分もリラックスして、快適な仮眠タイムになるかもしれません。
まとめ
仮眠を上手にとることは作業効率だけでなく、さまざまなメリットがあることをお分かりいただけたでしょうか。それでは今回のポイントを整理しますね。
①睡眠負債は知らない間に蓄積されている。
②仮眠は心身の休養とチャージ
③仮眠の時間はマイナスではなく、新たにモノを生み出す推進力になる。
④仮眠を業務にうまく取り入れると、作業に対するモチベーションが変わる。