「最近なんとなく調子が悪い」「ストレスがたまると、お腹が痛くなる」「イライラしていると、夜眠れない」
こうした経験、きっと誰もが一度はあるのではないでしょうか。
私たちの心と身体は、切り離せるものではなく、密接に結びついています。ストレス過多の現代、精神的な不調が身体に影響を及ぼしたり、病気を引き起こす要因となっているのも見逃せません……。
今回は、「心と身体のつながり」をテーマに、「心の状態が身体の健康にどれほど大きな影響を及ぼしているのか」について見ていきたいと思います。
心の状態が身体に与える影響
ストレスは身体に現れる

「仕事が忙しくて胃が痛くなった」「人間関係の悩みで眠れない」
そんな時、実際に身体も敏感に反応しているのを御存知でしょうか? 一時的なものであれば問題ないでしょうが、慢性的なストレスは、自律神経のバランスを崩し、胃腸や睡眠、免疫機能などさまざまな身体の働きに影響を与えます。
特に強いストレスを感じると、体内では「コルチゾール」や「アドレナリン」といったホルモンが分泌され、心拍数が上がり、筋肉が緊張します。これは危険から身を守るための自然な反応ですが、これが長く続くと心身に大きな負担がかかるようになります。
感情と身体のつながり

怒りや不安といった負の感情も、身体に大きな影響を与えてしまいます。怒ってばかりいる人は、心臓病のリスクが高くなるという研究報告もありますよね……。
精神的なストレスが長く続けば、身体の防御反応として免疫機能が働きます。このとき生じる身体の炎症反応が病気の引き金となることも否定できません。

ストレスセルフチェック表
まずはストレスについて、現在どの程度の自覚症状があるかをチェックしてみましょう。
症状の種類 | 具体的な症状 |
身体の不調 | ▢ 頭痛がよく起きる/肩こりや首の張りが続く |
▢ 胃が痛い/食欲がない/下痢・便秘が続いている | |
▢ 動悸や息切れがする | |
睡眠の变化 | ▢ 寝つきが悪い/夜中に何度も目が覚める |
▢ 朝スッキリ起きられず、疲れが取れない | |
気分の変化 | ▢ 何をしても楽しく感じられない |
▢ イライラしやすい/ちょっとしたことで落ち込む | |
低下 | 思考や集中力の▢ 物事に集中できない/ケアレスミスが増えた |
▢ 漠然とした不安がある/やる気が出ない |
【結果の判定】
●チェックが0~2個 → 今のところ問題なし!引き続きストレス管理を意識して。
●チェックが3~5個 → ストレスがたまり始めているかも。早めの対処がカギです。
●チェックが6個以上 → 心と身体がSOSを出している可能性大。休養をとるなり、家族や職場に相談するなど、何らかの対策を優先してくださいね。

身体に現れるサイン。 こんな症状は注意!
ここからはストレスに伴う身体に出やすい症状を見ていきましょう。心が感じたストレスは、無意識のうちに身体に「サイン」として表れます。以下は、よくある具体例です。
胃の痛み・消化不良
こんな時に起きやすい
- 締切前のプレッシャー
- 上司や同僚との人間関係のストレス
- 楽しくない食事(義務的・早食い)
どうして?
- 強いストレスを感じると、胃酸の分泌が増えたり、消化の働きが鈍くなったりします。その結果、胃痛・胃もたれ・食欲不振が起こるのです。
アドバイス
- 食事は落ち着ける環境で、よく噛んでゆっくり食べる。
- プレッシャーを感じたときは、温かいお茶や白湯を飲むだけでも胃の調子が落ち着く場合があります。
- 「胃の調子が悪い=我慢・無理してるサイン」ととらえるべき。

頭痛・肩こり

こんな時に起きやすい
- 長時間のパソコン作業やスマホ操作
- 精神的な緊張状態が長時間続く
- いつも気を張っている
どうして?
- ストレスにより筋肉が緊張し、血流が悪くなります。それが肩こりや緊張性頭痛として表れます。
アドバイス
- 1時間に1回は席を立ち、首・肩を軽くまわすようにしましょう。
- デスクでできる「耳を軽く引っ張るストレッチ」や「深呼吸」も有効です。
- 温めたタオルを首の後ろに当てると、緊張がふっとゆるみます。
不眠・寝つきの悪さ
こんな時に起きやすい
- 翌日の予定を気にしすぎる
- 心配ごとが頭の中でぐるぐるまわる
- 寝る直前までスマホを見ている
どうして?
- ストレスは脳を興奮状態にし、交感神経が優位になります。その結果、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなります。
アドバイス
- 就寝30分前は「スマホを見ない時間」にする。読書やストレッチがおすすめ。
- 寝る前に「今日よかったことを3つ」思い出すだけでも、安心感が得られます。
- 部屋の照明をオレンジ色の間接照明にするなど、環境も工夫してみましょう。

肌荒れ・吹き出物・口内炎

こんな時に起きやすい
- 急な環境の変化(転職・引越しなど)
- 疲れているのに休めない
- 対人関係で気をつかいすぎる
どうして?
- ストレスがかかると、ホルモンバランスが乱れて皮脂分泌が過剰になったり、免疫機能が低下して肌トラブルにつながります。
アドバイス
- 肌荒れ=身体の「休ませて」のサイン。意識的に休息日を設けることが大切。
- 食事では、ビタミンB群・ビタミンCを意識的にとる(例:納豆、緑黄色野菜、果物)
- スキンケアだけに頼らず、「肌=心の鏡」と考えて心にも栄養を与えましょう。
喉や胸の詰まり感

具体例
- 「うまく気持ちを表現できず、喉が詰まったように感じる。何もしてないのに息苦しい」
➡︎これは心因性の身体症状(ソマティック症状)で、心の葛藤が身体に現れる典型例です。
アドバイス
- 喉や胸に違和感を感じたら、「無理して我慢してないか?」と自分に問いかけてみる。
- 信頼できる人に“気持ちを言葉にする”だけでも、呼吸が楽になることが多い。
- 呼吸法:「4秒吸って→4秒止めて→6秒吐く」リズムで副交感神経を優位に。
心配事や罪悪感が身体にダメージを与えるのはなぜ?
心に深い傷を負ったり、心配事や良心の呵責、後ろめたさなどを抱えると精神的な苦痛だけでなく、身体にも深いダメージを受けるといいますよね。
それはなぜなのでしょうか? 「心の葛藤」や「未解決の感情」を放置すると、病気を引き起こすようになるのは心と身体が密接に結びついているからです。以下に、その主な理由を説明してまいりましょう。
自律神経が乱れるから
心配や罪悪感を抱え続けると、脳はストレス状態に陥り、交感神経(緊張や興奮を司る)が優位になります。すると、次のような身体の反応が起こります。
自律神経の乱れによる症状
- 心拍数や血圧の上昇
- 消化機能の低下(胃痛・便秘・下痢など)
- 免疫力の低下(感染症にかかりやすくなる)
- 睡眠障害(不眠、浅い眠り)

交換神経は活動モード、副交感神経は休息モードと捉えたら間違いないでしょう。
つまり、自律神経が乱れて交換神経が活発になるとき、体は常に「戦闘態勢」のような状態になり、休まる時間がないのです。
慢性的なストレスは脳にもダメージを与える

ストレスは身体に少なからぬダメージを及ぼしていきます。中でも、「後悔」や「罪悪感」「心配ごと」「憎しみ」などの負の感情は、何度も繰り返し思い出され、脳の中でループするようになります。これは心理学で「反すう思考1(rumination)」と呼ばれます。
この状態が長引くと、脳の機能にも影響が出るようになるでしょう。特に「大脳辺縁系」と呼ばれる、感情や欲求を感じたり、表現する部分が大きな障害を受けるようになるのです。
つまり食欲、性欲、睡眠欲、意欲などの喜怒哀楽、情緒、神秘的な感覚、睡眠や夢などの活動の中心になる部分がそうですね。記憶や自律神経の活動にも大きな関わりがあります。
脳のダメージによる機能障害
- 海馬(記憶と感情の調整に関わる)の萎縮
- 前頭前野(理性や判断を司る)の機能低下
- 扁桃体(恐怖や不安を処理する)の過活動
これが続くと、うつ病や不安障害など、精神疾患につながることもあります。
海馬の萎縮
海馬は主に「記憶の形成」と「感情の制御」に関与しています。萎縮すると次のような問題が生じます。
海馬の萎縮による問題
- 記憶障害:新しいことを覚えるのが困難になる(例:会話の内容をすぐ忘れる、何をしようとしていたか分からなくなる)。
- 学習能力の低下:情報の蓄積や整理がうまくいかない。
- ストレス耐性の低下:感情のコントロールが難しくなり、抑うつや不安のリスクが高まる。
関連疾患の例:うつ病、アルツハイマー型認知症、PTSDなど
前頭前野の機能低下
前頭前野は思考、計画、抑制、社会的判断を担う重要な領域です。機能が低下すると以下のような問題が起こります。
前頭前野の機能低下による問題
- 注意力・集中力の低下:物事に集中できず、ミスや忘れ物が増える。
- 感情の抑制が困難に:イライラしやすくなったり、衝動的に行動してしまう。
- 判断力の低下:危険な行動をとる、社会的に不適切な言動をしてしまう。
- 動機づけの低下:やる気が出ない、無気力になる。
関連疾患の例:ADHD、統合失調症、うつ病、認知症(特に前頭側頭型)など
扁桃体の過活動
扁桃体は「恐怖・不安・警戒感」など本能的な反応に深く関わります。過活動になると以下のような問題が起きます。
前頭前野の機能低下による問題
- 過剰な不安や恐怖反応:些細なことに強い恐怖や心配を感じる。
- 過敏なストレス反応:緊張しやすく、心拍数の増加・手汗・震えなどの身体反応が出やすくなる。
- トラウマの再体験:過去の恐怖体験が繰り返し思い出される(PTSDの症状)。
関連疾患の例:不安障害、PTSD、パニック障害、社交不安障害など。
三者の関連性

扁桃体が過活動になると、前頭前野がその過剰反応を抑えきれなくなり、さらに海馬がストレスで萎縮して記憶や感情の調整ができなくなる、という「悪循環」が起こるようになります。
この3つの脳領域は、精神的な健康を保つために密接に連携しているのです。

「感情の抑圧」は身体症状として現れる
未消化の感情を長く抑え続けていると、やがて身体が「代わりに訴える」ようになります。これを心身症といいます。
心身症は、ストレスや対人関係など、精神的な要因が身体の病気の発症や経過に大きく影響を与えるもので、決して気のせいなのではありません。
心身症の症状
- 頭痛、めまい、耳鳴り
- 慢性的な肩こり、腰痛
- 胃腸の不調(胃潰瘍、過敏性腸症候群など)
- 更年期でもないのにホルモンバランスが崩れる
「検査しても異常が見つからないけれどつらい」という状態は、まさにこのようなケースで見られます。心の問題もきちんと理解し、適切な治療を受けることが大切でしょう。

「自己否定感」が自己治癒力を弱める
良心の呵責や後ろめたさは、自分自身を責める感情です。「自分なんてどうなってもいい」という自己否定の感情を一度持ってしまうと、心身のバランスは大きく崩れ、負の感情がエスカレートしていきかねません。
自分なんてどうなってもいいんだという気持ち
今さら何かをしようと思っても無理だという諦めの気持ち
自暴自棄になってなりふり構わなくなる
自己否定が続くと、自分で自分を癒す力(自然治癒力)まで奪われてしまうのです。

心配事や罪悪感を放置することがなぜ危険なのか
アドバイス
- 脳と身体が「緊張モード」に入りっぱなしになる
- 脳の機能低下やストレスホルモンの過剰分泌が起こる
- 抑圧された感情が身体に「症状」として現れる
- 自分への信頼や自己肯定感が損なわれ、自然治癒力まで奪われる
つまり、「心の荷物」は放っておくと、静かに、でも確実に身体をむしばむのです。
必要なのは、「感じていることに気づいて、言葉にすること」。誰かに話す、書き出す、許す、手放す…そうした行動が心身の健康を回復させる一歩になります。
「悩みは心にしまわず、身体の声に耳を傾ける」ことが、回復の第一歩です。
良心の呵責を感じるのは、それだけあなたが誠実に生きている証拠でもあります。だからこそ、「過去の自分を責める」のではなく、「今の自分を労わる」視点を持って、ゆっくり整えていきましょう。
セルフケアの具体的な方法
心や身体に溜まった「目に見えない荷物」を軽くするには、「感情を見つめて、ゆっくり手放す」ことがとても効果的です。以下に、セルフケアの具体的な方法と、心を軽くするワークをご紹介します。
呼吸と身体の感覚に意識を向ける

- 方法:深くゆっくりと鼻から息を吸い、口から細く長く吐き出します
(3秒吸って6秒吐くくらいのペース) - 効果:交感神経の働きを静め、緊張していた心と身体をゆるめます。
気持ちを書き出す「ジャーナリング」

- 方法:ノートやメモに、「今、心の中にあるもの」を自由に書き出します。良い・悪いは気にしません。
テーマ例:「最近、心に引っかかっていること」「言いたかったけれど言えなかったこと」「ほんとうはどうしたかったのか」 - 効果:頭の中でループしていた思考が整理され、心が可視化されることでスッと楽になります。
自然とつながる時間をもつ

- 方法:公園を歩く、空を見上げる、木や草の香りを感じるなど、「今ここ」の感覚に意識を向けると、不安が軽減します。
- 効果:五感が刺激され、心が今に戻ってきます。考えすぎて疲れた脳が休まります。
信頼できる人に話す

- 方法:心配事や罪悪感は「秘密」にしておくほど重症になりやすいものです。
- 効果:友人、カウンセラー、家族など「安全な関係」で話すだけで解放される感情はたくさんあります。
「自分への手紙」を書く

- 方法:良心の呵責や後悔が強いときは、自分に向けて手紙を書くことで客観的に自分を見つめることが可能になります。
- 例:「あの時は苦しかったね。でも、よく頑張ったよね」「まだ気持ちの整理はついてないけど、少しずつでいいから前へ進もう」

心を軽くするワーク3選
心の荷物を手放すことは、「無理に前向きになる」ことではありません。まずは「そのままの気持ちを、あるがままに受け入れること」から始まります。
次にあげるワークは、きっとあなたの心を癒やし解放する起点となるでしょう。
「心の荷物リスト」ワーク

「心の荷物リスト」ワークは、抱えている悩みやストレスを書き出して整理し、手放すことで心を軽くするワークです。リストを作成することで、自分の感情や状況を客観的に見つめ、対処法を考えやすくなります。
紙にこのように書き出してみましょう!
- 今、私が心の奥で気にしていること
- それはなぜ、こんなに引っかかっているのか?
- 今の自分がそのことにどう関わっているか
- それを手放すためにできる小さな一歩は何か?
➡ 書くことで「感情が消化」され、冷静な目線を持てるようになります。
「ありがとう日記」ワーク(感謝で心を整える)
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毎晩、「今日あった小さなうれしいこと」「ありがとうと思えたこと」を3つだけ書きます。「今日は○○にありがとう」と書くことで、日々の中にある小さな幸せに気づく力が高まり、幸福感も高まるようになるでしょう。
具体例
- あたたかいお茶がおいしかった
- すれ違った人が笑顔だった
- 自分にちゃんと昼ごはんを食べさせた
➡ 感謝の感覚が少しずつ積み重なると、罪悪感や後悔が緩み、「私はちゃんと生きている」と感じられるようになります。

「感情ラベリング」ワーク

「感情ラベリング」ワークとは、自分の感情を言葉で表現する活動のことです。これにより、感情を客観的に捉え、ストレスを軽減する効果が期待できます。特に、ネガティブな感情を言語化することで、感情をコントロールしやすくなると言われています。
感情がわきあがった時、「今私は〇〇を感じている」と心の中で言葉にします。
具体例
- 「今、私は不安を感じている」「私は怒っている」「私は悲しい」
そのあと、自分にこう問いかけます:「それはどんな理由から?」
➡ 感情を言葉にするだけで、脳の情動処理がスムーズになり、冷静さが戻ってくることが、心理学的にも確認されています。

まとめ
これらの習慣は、すべて「今すぐ・簡単に・自分のペースでできること」ばかりです。完璧を目指す必要はありません。気づいたときに少しやる、それだけで十分です。
心と身体は、まるで一枚のコインの裏表のように、どちらか一方だけを切り離すことはできません。心がすり減っていれば、身体はきっとサインを出しているはずです。身体が疲れていれば、心もまた揺らいでいることでしょう。
だからこそ、「心を整えること」は身体を守ることであり、「身体を労わること」は心を癒すことなのです。
今日のあなたの心と身体に、ちょっとだけ目を向けてみませんか? どちらかがつらそうなら、少し休ませてあげてください。それが、自分を大切にする第一歩になるはずです。
- 過去の嫌な出来事や失敗、自分の欠点などを繰り返し考え続ける思考パターン ↩︎