マネ、ドガ、モネ、ミレー、クールベ、コロー、セザンヌ、ゴッホ、ルノワールなど、印象派、ポスト印象派の名だたる画家の作品を中心に1986年に開館したオルセー美術館。
印象派の作品だけでなく、アール・ヌーヴォーなどの装飾、写真に至るまで、19世紀から20世紀初頭の激動期を象徴する幅広い作品が並ぶオルセーは、訪れる人をドラマの空間に誘うかのようです……。
さてオルセーはあなたにとってどのように映るのでしょうか?
Information
●名称 Musée d’Orsay
●開設 1986年12月9日
●面積 展示面積17,000㎡
●常設展示 4000作品
●撮影 カメラ撮影はOK。ビデオ撮影、フラッシュ撮影はNG。
●開館 9:30-18:00/木曜 9:30-21:45(休館・月曜日)
●入場料 現地購入14ユーロ、オンライン購入16ユーロ
●公式サイト musee-orsay.fr/fr
●Instagram @museeorsay
歴史
オルセー駅舎として建設
1900年、オルセー宮の跡地に建築家ヴィクトール・ラルーの設計で豪華な駅舎兼ホテルが建設された。
パリの中心部に位置し便利な『オルセー駅』は、当時パリ万博に間に合わせるように作られたのだった。
幹線に使われるようになった長い列車に、短い駅のホームが対応しきれなくなる。おもに近郊を結ぶ駅舎として利用されるが、駅舎としての役割は終了した。
映画のロケに使用される
ベル・エポックの壮麗な建築として輝かしい賛美を集めた駅舎は、やがて廃墟同然の姿に変わりはてた。しばらくは駅舎の一部を配送センターとして利用される。
1962年にはオーソン・ウェルズが監督・脚色したカフカの『審判』などの映画セットに使われたり、劇団の待機場所やオークションの会場として使用される。
取り壊しの許可と歴史的建造物の認定
旧オルセー駅の下に新駅を設置する計画が決定。レゾー・エクスプレス・レジョナルの建設の一環として、長さ1kmのトンネルを建設する工事が始まる。1970年に駅の取り壊しが許可される。
文化大臣のジャック・デュアメルが新しいホテルの建設計画に反対したため、駅舎の取り壊しが頓挫する。
1974年にフランス博物館総局からルーブル美術館とポンヴィドーセンターの橋渡し的な役割をはたす美術館計画が持ち上がる。1978年に歴史的建造物の補足リストに登録される。
美術館の設計コンペと開館
イタリアの建築家ガエ・アウレンティが改修を担当。駅舎の外観はそのままに、自然採光や人工照明を組み合わせた落ち着いた内装で美術館として蘇らせた。
駅舎にあったホテルのダイニングルームはレストランに生まれ変わり、その天井は100年前のまま華麗なフレスコ画で飾られている。
1986年12月9日、当時のミッテラン大統領が新たな美術館の開館を華々しく宣言し、オルセー美術館が誕生した。
美術館の特徴・見どころ
印象派からポスト印象派へ
モネ、ピサロ、シスレー、ルノワール、セザンヌなど、オルセー美術館は圧倒的に印象派の傑作が多いという印象がありますよね。
オルセー美術館では主に19世紀中頃から20世紀前半にかけての、絵画が大きく変貌を遂げた1848年から1914年までの西洋絵画を所蔵しています。
この頃は激動の時代で、芸術も印象派が出現し、その後ポスト印象派が出てくるなど、多様性が顕著に現れた時代ですね。
人々の意識や生活の移り変わりを強く反映させた19世紀、20世紀初頭の絵画を実社会と照らし合わせながら心ゆくまで味わうことができるでしょう!
ベル・エポックの壮麗な建築
オルセー美術館は、パリ万博(1900年)が開催された当時のベル・エポック様式を今に伝える壮麗な外観の建物です。
オルセー駅舎を改装した建築家ガエ・アウレンティの内装も美術館の落ち着いた雰囲気を引き出しています。
美術館のシンボルのひとつ時計台は、当時の駅舎の名残を強く感じさせるもののひとつです。
必見の絵画
ここではオルセー美術館の見どころとして頻繁に挙げられるマネ、ドガ、ルノワールなどの絵は紹介していません。しかし時間が許す限りぜひ見ておいて損にならない絵といえるでしょう。
落ち穂拾い
ミレー『落穂拾い』1857年
The Gleaners/Jean-François Millet 1857
パリからバルビゾンに移住したミレーは、1850年にサロンに出展した『種まく人』以来、農民の生活を描いた画を数多く手がけてきた。
ミレーの農民画は貧しい中にも、ひたむきに汗を流し、大地に根ざした生活をする農民たちの姿を丹念に描いている。
この3人の婦人たちは、遠くで見守る家主の管理下でトウモロコシ収穫後に落ちていた穂を拾う特別な権限を与えられた、いわば最も貧しい農民たちだったのだ。
南仏の明るい陽射しに照らされて農作業をする姿が毅然としていて美しい。
泉
ドミニク・アングル 1820-1856
La Source/Dominique Ingres 1820-1856
アングルはデッサンの達人だ。そのアングルが普遍的なバランスを意図して描いた作品のひとつが本作品。
緩やかなカーブや女性的な柔軟さが噛み合ったポーズは、普遍的な美しさと視覚誘導を誘う。そして完璧な構図は揺るがぬ古典的安定感を醸し出す。
しかしここでもアングルは絶妙なデフォルメを加えている。少女のような顔を配置させることで、アンバランスな中にも強いインパクトとオリジナリティを出しているのだ。
晩鐘
ジャン・フランソワ・ミレー1857年
L’Angélus/Jean-François Millet 1857
夕暮れの農地に佇み、真摯に祈りを捧げる農民たちの姿を描いたごくありふれた絵だが、慕わしさや郷愁、優しさが画面を覆う。
ミレー自身が農作業に従事していたため、農民たちの苦労や収穫への想い、大地のめぐみヘの感謝が人一倍強く実感を伴うのだろう……。
自然と共存して生きる人間の強さやひたむきさが画面を通して伝わってくる。
羊飼いの少女
ジャン・フランソワ・ミレー1863年
Bergère avec son troupeau/Jean-François Millet 1863
1864年サロン出品の「羊飼いの少女」は、あらゆる層の人々から絶賛される。ミレーの作品としては初めてのことだった。
草を食む羊の群れを照らす柔らかな光が郷愁を呼び起こす。晩秋から冬の初めなのか、寒空の下に立ちつくす少女の健気な姿が愛おしい……。
静寂と安定感を生み出す水平線構図と放射線構図が絶妙に調和を保つ中で、画面全体に拡がりのある気持ちのいい空間が生み出されている。
オーヴェルの教会
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ 1890年
De kerk van Auvers 1890/Vincent vin Gogh
前景の庭の部分の明るさに対して、教会の建物が異様に変形して闇に包まれていることに気づく。
しかし夜の佇まいにしては空は青く、どこまでも心が現れるように深く美しい。
ゴッホ最晩年の作品だが、ゴッホはどのような心境でこの絵を描いたのだろうか……。画面を彩る色彩の美しさとコントラストは息を呑むようだ。
ローヌ川の星月夜
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ 1888年
Starry Nigh 1888/Vincent vin Gogh
あちこちで美しく輝きを放つ星空。その輝きは水面にもくっきりと反射して神秘的な美しさを醸し出している。
画面全体を覆う群青のような青と、黄金のように輝く星の光が見る者の心を吸い込むようにさえ思える。
リンゴとオレンジのある静物
ポール・セザンヌ 1895年
Nature morte aux pommes et aux oranges 1895 /Paul Cézanne
この絵では構図、色彩、形態、マチエールなどの要素が絵の中で極め尽くされている。何度眺めても飽きない驚くほどの情報量と、実感を伴う絵の強さがここにはある。
特にリンゴやオレンジのしっかりした存在感や密度の濃さは並大抵ではない。
周到に配色やマチエールが施され、再構成された周辺の皿や花瓶、布は、個性を持った人物のような存在感を放つ果物たちを引き立てている。果物からは濃厚で芳醇なみずみずしい香りさえ伝わってくるではないか……。
日傘の女・左向き
クロード・モネ 1886年
Woman with a Parasol, facing left 1886/Claude Monet
印象派画家としてのモネのインスピレーションや技法が結実した傑作中の傑作。
やや強めの風が女性のドレスの裾やネッカチーフを揺らし、光が身体やパラソルを燦燦と照らしているのが伝わってくる。
空中で風が舞っているのだろうか……。空の動きは素早いタッチで描かれており、風の方向や強さが眼前に浮かんでくるかのよう。モネのその場にいるかのような空気感、臨場感を再現する才能は別格!
まとめ
現在は毎年300万もの人が訪れるという超人気スポットのオルセー美術館。
その魅力はお洒落で壮麗な外観とともに、あらゆる面で時代を先取りした芸術家たちの息づかいや作品で充満しています。
あなたのお気に入りの絵を探すのも良いでしょうし、アンティークな気分にどっぷりと浸かるのも悪くないでしょう……。きっと発見と癒やしの時間になるはずです。