平凡な日常に横たわる孤独と寂寥感。時には能楽や小気味よいリズムの演劇の舞台を見ているような独特の感覚にとらわれるのが小津安二郎監督の映画の世界です。
それは日本的情緒と哀愁を絡ませつつ、日本の伝統美とモダンアートのような斬新な美を両側面で魅せてくれる唯一無二の世界なのかもしれません……。
渋谷の『ル・シネマ』では、12月8日から新たに4Kデジタル修復された小津映画の名作が1週間続けて上映されます。
12月8日からの7日間上映
今回上映される小津安二郎の作品は誰もが一度は観ておきたい、堪能したいと思う名作揃い。しかもすべてデジタル修復された映画です。公開する映画館は渋谷の『ル・シネマ』。
ル・シネマと聞いてピンとくる人もいるでしょう。そう、今年の3月で一時的に閉館となった東急Bunkamuraのミニシアター系映画館です。
映画館の場所は宮益坂下にあります。以前は渋谷TOEIが入っていました。ル・シネマは期間限定(2027年までの予定)で渋谷東映プラザの7階・9階に移転したのです。
上映スケジュール
上映スケジュールは上の表のとおりです。1週間日替わりで作品が上映されます。午前が10時20分から、午後が13時5分からの1日2回の上映のようですね。
東京暮色(1957)と、父ありき(1942)はこの期間2回上映されるようです。
4Kデジタル修復版の鮮明な映像
今回の『小津安二郎・モダン・ストーリーズ』の最大の特徴はいずれの作品も丁寧にデジタル修復がなされていることです。
特にモノクロ映画はすべて4Kデジタル修復になっていることに驚かされますね。
戦前に制作された『父ありき』は、経年劣化とノイズのため、名作ではあるけれども敬遠してきたという人も少なくないでしょう。
松竹シネマクラシックスでは、『父ありき』の4Kデジタル修復について次のようにコメントしています。
国立映画アーカイブと松竹の共同事業にて修復を行いました。 4Kデジタル修復では、松竹が所有する16mmマスターポジと、ロシアで新たに発見され、国立映画アーカイブが保管している35mmプリント(72分)の両方を4Kスキャン。双方の画と音を比較し、欠落している箇所を組み合わせ、1942年公開当時のオリジナル版に限りなく近い状態への修復を行いました。
松竹シネマクラシックスより
小津安二郎の世界
小津作品はどれもこれもシンプルなストーリー展開と、言葉では表現しがたい日本人に潜在的にある美意識と感情を見事に表現していますよね。しかも不思議と長さを感じさせません。きっと表現が簡略化されて無駄がないのでしょう。
個人的に強く印象に残っているのは『秋刀魚の味』(1962年)のあるシーンですね。
花嫁衣装を身に纏った娘(岩下志麻)が畳に手を突いて「今までいろいろとお世話に……」と言いかけた瞬間、父(笠智衆)が「ああ わかってる わかってる しっかりおやり…幸せにな」と言葉をさえぎる場面があります。
それは父の心にぽっかりと穴が空いてしまい、それを埋めつくせない複雑な心境が痛いほど伝わってくる場面でした……。
娘の幸福を考えればうれしいはずなのに、それが素直に喜べない父親の戸惑いや寂しさ……。やるせない想いが絶妙なタッチで描かれているのです。
小津監督の美学は他の映画でも冴えに冴え渡っていますね。たとえば、『東京物語』(1953年)で東山千栄子と笠智衆の後ろ姿をカメラのポジションを変えないでローアングルで撮り続けるのもその一つでしょう。
その他、無駄な動きを極力取り除いたり、俳優の視線、セリフの口調、調度品の色調の統一を試みたのも徹底した演出のこだわりからくるものなのでしょう。
映画館情報
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
住 所 | 〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-24-12 渋谷東映プラザ 7F&9F(1F:チケットカウンター) |
TEL | 050-6875-5280(自動音声案内) |
会期 | 12/8(金)~12/14(木) |
料金 | 学生:¥1,500(平日は学生¥1,200) | 一般:¥1,900(火曜サービスデー¥1,200 )
HP | https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/23_ozu.html |