ニューヨーク5番街にあるメトロポリタン美術館は、パリのルーブル美術館やサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館と並んで世界の3大美術館と呼ばれています。
1880年にセントラルパークを拠点に開館して以来拡張を続け、現在では総面積が約185,800平方メートルを超える芸術の殿堂となりました。
アメリカらしく文化・芸術に資金を調達するのを惜しまない精神も素晴らしいですね。
何より美術館のコンセプトが一貫していて、こだわるところは徹底的にこだわっているところもメトロポリタン美術館の他の海外の美術館にはない大きな魅力といえるでしょう。
Information
名称 | The Metropolitan Museum of Art |
開設 | 1870年 |
面積 | 展示面積17,000㎡ |
常設展示 | 4000作品 |
撮影 | カメラ撮影はOK。ビデオ撮影、フラッシュ撮影はNG。 |
開館 | 日・火・木10:00-17:00/金・土 10:00-21:00 |
休館日 | 水曜日/感謝祭、12月25日、1月1日、5月第1月曜日 |
入場料 | 大人30ドル/65歳以上22ドル/学生17ドル/12歳以下入場無料 |
公式サイト | The Metropolitan Museum of Art |
@metmuseum |
歴史
アメリカ独立記念日のお祝いでパリに集まった米国人の会合で美術館構想が提案される
政治家、実業家、芸術家、美術収集家、慈善活動家などの協力の下、5番街681番地のドッドワース ビルで美術館として開館し、一般公開された。開館後は基金による購入や、コレクターからの寄贈によって収蔵品数は激増する。
現在のメトロポリタン美術館の表玄関である5番街本館と大ホールが、建築家で美術館創設理事のリチャード・モリス・ハントによって設計され、1902年12月に一般公開される。
ついにニューヨークに新古典主義の芸術の宮殿ができました。 世界で最も優れた建物であり、威厳と壮大さにおいて旧世界の博物館に迫る近年の唯一の公共建築物です。
イブニング・ポスト紙:1902
マンハッタン北部のフォート・トライヨン公園内に、フランス修道院の遺構を移築した中世ヨーロッパの空間を追体験できる別館METクロイスターズが開館する。
創立100年を記念する事業として、アスワン・ハイ・ダムの建設に伴い水没する運命にあったデンドゥール神殿がそっくり移築された。
現在は絵画・彫刻・写真・工芸品ほか家具・楽器・装飾品など300万点の美術品を所蔵。全館を一日で巡るのは難しいほどの規模を誇る、世界最大級の美術館のひとつとなっている。
特徴と見どころ
世界一の民間美術館
METは世界に名だたる美術館ですが、これほどの壮大な規模を誇る美術館が、国や地方財政で賄われる国立や州立でもないことにはただただ驚きです。
純然たる民間の美術館である点は特筆すべきでしょう。
入館料は最近まで「希望額」となっていましたが、2018年3月以降、ニューヨーク市民およびニューヨーク近郊の住民以外は支払いが義務づけられました。(大人25ドル、65歳以上17ドル、学生12ドル、12歳未満は無料)
セントラルパークが隣接
ニューヨークの中心部、五番街にある美術館ですが、隣接するのがセントラルパークというのが、METの特徴を一番的確に表しているかもしれませんね。
来館者は疲れたら、セントラルパークの緑を眺めながらリラックスするのもいいでしょう……。または気分を変えるために散策するのもいいですよね。大都会にいることも忘れてしまうかもしれません。
あらゆるカテゴリーを網羅
METはコレクションの幅が極めて広いのが特徴です。あらゆる時代、地域、文明、技法の作品を収集しているのが理解できるでしょう。
武器・武具、アフリカ、オセアニア、アメリカの美術品、古代近東美術、アジア美術、衣装、素描・版画、ヨーロッパの彫刻・装飾美術、ギリシャ・ローマ美術、イスラム美術、中世美術、近代・現代美術、楽器、写真、ロバート・リーマン・コレクションなどがおもなコレクションです。
ショップが充実している
William Morris Compton Oblong Silk Scarf
レストランやカフェは館内に点在しているので、鑑賞に疲れたら、コーヒー休憩をしたり、食事を楽しむのもよいでしょう。
ミュージアムショップの充実ぶりも有名です。
ミュージアムショップでは、展覧会の図録、美術品や書籍、ユニークな雑貨など、心をくすぐられる商品が目白押しです。贈り物として喜ばれそうなものも多いですね。
特にメインショップにはMETのオリジナルグッズがたくさん揃っています。また、美術館のテーマに関連する書籍、ミニチュア、雑貨などはオンラインショップでも購入できるのがいいですね。
館内マップ
美術館の展示は本館の1階と2階がメインです。とにかく広いため、手元に地図がないと自分が今どこにいるのか分からなくなるかもしれませんね。入場時に地図は必携です。
必ず見たい絵画
メズタン
アントワーヌ・ヴァトー(1719年、油彩)
Mezzetin 1440/Antoine Watteau
ヴァトーは哀愁を帯びた人間像を描いて並ぶ者がないほど卓越した表現力を持ち、デリケートな感性で時代を席捲した画家だ。
「メズタン」も報われない恋に嘆きながらも、ギターを弾きながら顔で笑って心で泣く……。おどけ者の使用人を絶妙に描いている。
ヴァトーはメズタンの背後にある庭園に背をそむけた女性の彫像を描いて対比を浮き彫りにしている。また寒色系の淡い色彩の背景も見事だ。
メランコリア
アルブレヒト・デューラー(1514年、銅版画)
Melencolia 1514/Albrecht Dürer
これは「書斎の聖ヒエロニムス」、「騎士と死と悪魔」とともにデューラーの代表作であり、三大銅版画と呼ばれる。
古くから人間の4つの気質の一つといわれる「憂うつ」を擬人化したもので、天使が目の前の慌ただしい光景を見つめて塞ぎ込んでいるようすを描いている。
床に散らばったグローハンマー、ノコギリ、かんな、はしご等の木工道具。虹、惑星、翼にタイトル文字が描かれているコウモリのような生き物などのモチーフが神秘的な雰囲気を醸し出す……。
精緻で細部まで血が通ったデューラーの作画は極めて完成度が高いし、感情移入が凄い。しかもシャープな線は生気に富んでいて、あらゆる要素をこの上なく雄弁に描き出している。
ホメロスの胸像を見つめるアリストテレス
レンブラント・ファン・レイン(1653年、油彩)
Aristotle with a Bust of Homer
1653/Rembrandt van Rijn
この絵はギリシャの哲学者アリストテレス(紀元前384~322年)が、『イリアス』と『オデュッセイア』で不朽の叙事詩人と讃えられたホメロスの胸像に手を置いているようすを描いたもの。
アリストテレスは世俗的な成功を収めたものの、ホメロスが到達した本質的な成功には到底及ばないと嘆いているのかもしれない。
レンブラントの心の内奥を見つめる深い眼差しが光っている。物思いに沈むアリストテレスの表情がなんと深く悲哀に満ちていることだろう……。
トレド風景
エル・グレコ(1597年-99年、油彩)
View of Toledo 1597-99/El Greco
ここに描かれているのは一般的な風景画の概念とは違うし、違和感を持つ人も少ないだろう。
深緑や黄色をベースにした大地、どんよりとした雲の隙間から光が差し込んでいる。青とグレーをベースに空の間に、灰色のシルエットをくねらせるトレドの町。
木々や建物、空気までもが生き物のように一つの光の道筋に導かれるようになびいているようすが圧倒的だ。
これは目に見える風景ではない。エル・グレコの心象風景であり、人々の心のなかに生き続けた「カトリックの総本山トレド」としての風景なのである。
水差しを持つ女
ヨハネス・フェルメール(1663年、油彩)
Woman with a Water Jug 1663/Johannes Vermeer
左から光が差す室内に立つ女性という、フェルメール定番のテーマだ。女性は右手を窓枠にかけ、左手でテーブルの上の水差しの取っ手をつかむ。
柔らかな陽射しが室内を穏やかな空気で包みこむ。あたりまえの日常が永遠の瞬間に変異していることに驚きを感じる。構図や色彩、彩度のアプローチも実によく計算されていて、全体の調和が崩れることがない。
それを可能にしているのがフェルメールの鋭い観察眼と描写力以外の何ものでもないのだ。
ド・ブロイ公爵夫人の肖像
ドミニク・アングル(1853年、油彩)
The Princesse de Broglie, 1853/Dominique Ingres
ドミニク・アングルの肖像画は他の画家にはない独特の魅力がある。「ド・ブロイ公爵夫人の肖像」はアングルの他の肖像画と同様に、古典的なアプローチと大胆なデフォルメが一つの絵の中で見事に両立している。
特に色彩と構図は実によく練られていて圧巻だ。体感温度は低いが、全体の色味や背景の色調を極力抑えることで得られた肌の透明感やドレスの落ち着いた色調、美しい光沢が目を引く。
また安定感抜群の三角形の構図に、S字型構図を巧みに入れることでゆるかな動きも採り入れているのが見事だ。
サンタドレスの庭園
クロード・モネ(1867年、油彩)
Garden at Sainte-Adresse 1867/Claude Monet
この絵はモネが印象派の画家として本格的に出発する前の作品だ。
すでに後年の印象派を想わせる絵の魅力があちこちに見られる。たとえば風に勢いよくなびく旗のようすや、風であおられる煙の流れが、どのような日だったのかを如実に表しているし、画面全体から臨場感が漂う。
そして画面を水平に三等分した構図が、落ち着きと安定感を与えている。
糸杉
フィンセント・ファン・ゴッホ(1889年、油彩)
Cypresses 1889/Vincent van Gogh
ゴッホがサン=レミーのサン=ポール病院に入院していた時に描かれた作品。
ゴッホは糸杉を「エジプトのオベリスクのように、線とプロポーションが美しい」と評していた。色彩は灼熱の太陽のように激しく、チューブから厚塗りで置かれた強烈なタッチは生命のエネルギーを刻み込むようで比類がない。
この作品は後に、1890年にパリで開催されたサロン・デ・インデペンダントで展示された。
まとめ
何が直接のきっかけになったのかは定かではありませんが、パリに集まったアメリカ人から「アメリカに世界に誇れる美術館がない」という理由で1世紀ほど前に有志が提案したという美術館構想。
それがあれよあれよという間に計画の実現に向けて実行されたという事実! アメリカ人のバイタリティの凄さを感じる話ですよね……。
開館当時のポリシーはずっと受け継がれていて、メトロポリタン美術館は今なおワクワクと驚きを与え続けてくれる美術館といってもいいでしょう。