2020年からの世界的なコロナ禍は医療だけでなく、経済、流通、文化、教育など……あらゆる関連の人々を巻き込んで大混乱となりましました。
その爪痕は現在も癒えることなく、私たちの生き方や価値観までも大きく変えようとしています。
ただしコロナ禍を経験することで、あたりまえの日常では気づかなかった解決すべき課題や、業務を効率的に進める上でクリアしなければならないことが浮き彫りになったことも確かですね。
今回はクリエイティブ関連業とサービス業に限定して、時代とともに変わるリアルビジネス(出勤型)とオンラインビジネスの方向性を探っていきます。
具体的にはリアルビジネスでなければ支障をきたす職種と、オンラインでも問題ない職種、やり方次第でどちらにも対応できる職種の3つに絞って見ていきます。
見えないリスクにどう対処
コロナ禍で一番厄介だったのは「見えない脅威とのたたかい」だったことです。
その被害の大きさは想像を超えていました。
世界中で爆発的に感染者が増え、手がつけられない状況となってしまったのです。
仮にコロナが目に見えればリスクを想定しながら対策が施せますが、目に見えないと対策を講じることすらできません。
特にリアルビジネスの痛手は大きく、休業や倒産、失業に追い込まれた企業やお店の数もはかりしれません。
感染症はあらゆる活動をストップさせ、社会の常識を根底から覆すような事態に追いやってしまったのです。
このことから想定外の事態への対処や代償は大変なものでしたが、新しいビジネススタイルの空気が出てくるなど、実りももたらしたのでした。
リアルサービスが生命線の業種
接客メインの業種は、基本的にリアルビジネスでこそ真価を発揮できる業種といっていいでしょう。
飲食業
コロナ禍で最も影響を受け、最大限の注意を払わなければならなかったのが飲食業でした。リスクを受けやすいという状況は今後も変わらないでしょう。
お客様に来ていただき、食事をおいしく召し上がっていただくのが仕事ですから、オンラインはどう考えても無理です。
ただし予約システムを充実させて、いつ行っても必ず席が確保できるようにすることはひとつの感染・混雑緩和対策として考えられるかもしれません。
小さいことですが、これも顧客満足度のアップに確実に繋がっていきますね。
また万が一の場合を考慮してテイクアウトで売り上げを確保するにはどうしたらよいのか、または来店しなかったとしても、お客様に安全にメニューを届けられる方法や手段はないのかも考えていくべきでしょう。
これからは店内の消毒や衛生面の強化、空調設備の整備も絶対条件になるかもしれませんね。
ミュージシャン・演奏家・舞台
ライブには映像や録音では伝わらない空気感や息づかいがあります。
そして生の歌声、コンサートは何ものにも代えがたい迫力や感動があることは誰もが実感していることでしょう。
ましてやライブは空気感を共有することも目的のひとつなので、オンラインだけに限定されると実演の感動を実感している者にはどうしても物足りなさを感じてしまいます。
どなたかが仰っていたようにライブに行くと「空気が振動しているように感じる」という感想は正しいと思います。
ミュージカル、オペラ、歌舞伎などの舞台もまったく同様です。オンライン公開だと生の感動や興奮は激減してしまうのは公演の性質上どうにも仕方がありませんね…。
今後対策が考えられるとしたら、ライブビューイングの設備投資や会場の空調システムなどの対策になるのでしょうか……。
航空機・鉄道・バス・交通
リアルな業務だけに限定されるという観点からすれば、交通事業はその最たるものかもしれません。
普段あたりまえのように動いている航空機、鉄道、バス、タクシーなどが突如としてストップすると、交通だけでなくあらゆる業界に甚大な影響が及びます。
コロナ禍でそのことが実証される形となりました。
いずれの交通手段も、お客様をそれぞれの目的地に運ぶ潤滑油のような働きがありますから、それがストップするとあらゆる機能の麻痺につながることが白日の下に晒されることとなったのです。
できるとすれば、今後造られる旅客機や電車などの抗菌素材の使用や空調システムの大幅な改善ということになるのでしょうか……。
ブティック
現在はオンラインでさまざまな衣類を検索したり、注文できるのはあたりまえです。それだけでなく、コーディネートが自分で自由に選べるアプリやオンラインサービスもありますね。
しかしシルエットや質感を大切にする人は、やっぱり服はお店で試着しないと、コーディネートが難しいという方が多いのも事実です。
これは日頃よく利用する方でなければ、その便利さは認識できないかもしれません。
確かに服の素材や手触り感、着心地、シルエットなど、実際に手にとって合わせてみないとわからないのは間違いないでしょう。
またお店のくつろいだ雰囲気の中で選ぶのが楽しみという方や店員さんのアドバイスを参考にしたり、一緒に選んでもらうのが好きという方も少なくありません。
展覧会・美術館・博物館
美術館の運営だけなら、もしかしたらオンラインでも可能かもしれません。
しかし絵は本物を見てこそ良さが伝わりますからね。実際に美術館で見るのと、画集で眺めるのとでは恐ろしいほど違いがあるのは確かです。
たとえばゴッホの絵が凄いというけれど、画集を見ただけだとなかなか良さが伝わりませんね。
絵の具の厚塗りの質感、タッチの迫力、迫ってくるような存在感はオリジナル作品を見ない限り絶対に伝わってこないものでしょう。
今後の方向性としては、すでに一般的になりつつあるオンラインの入場予約システムの導入ですね。
人気のある展覧会だと平日でも混雑して、ゆっくり絵が見られないという弊害は確かにありました。時間帯ごとの予約システムが導入されれば、そのような課題が克服される可能性があります。
曜日や時間帯によって人が集中しすぎないように人数制限をすることは、今後は大いに歓迎されるかもしれません。
理髪店・美容院・マッサージ・エステ
理髪店や美容院、マッサージ店などもリアルな接客が大前提になる職種です。
何よりもお客様の身体に触れる頻度の高い職種ですから、コストパフォーマンスや技術オンリーだけではなく、スタッフとお客様との信頼関係がいかに築けるかが鍵になるでしょう。
もちろん個々のスキルやセンス、コミュニケーション力などのさまざまな要素も満足度に直結しますね。
オンラインの予約システムを導入するなどして、接客以外の業務の負担をできるだけ軽減することもポイントになるでしょう。
オンラインで完結できる職種
クリエイティブな作業、インターネット関連の業種は、滞りなくほぼオンライン上で作業が完結できます。
IT関連業
すべてがオンライン上で始まり完結するインターネットサービス。
コロナ禍で遮断されかけたコミュニケーションや、業務の空白をオンラインシステムでつなぎ止めたことによって、改めてその存在感を世界に知らしめることとなりました。
IT関連の業種は、文字どおり顧客管理からサービス全般に至るまで、あらゆる工程がオンラインで完了するように特化したシステムです。
むしろオンライン上でリアルな感動体験を具現化しようとしている向きもあるので、これからの動向が楽しみかもしれません。
デザイナー、オペレーター
デザイナーやオペレーター、イラストレーターなどのクリエイティブ関連の作業はデジタル入稿・オンライン化が定番になっています。
パステルや水彩のようなアナログ的表現や技法も、現在はデジタルツールでアナログ的な表現が可能になってきました。
仕事の依頼や入稿のタイミング、締め切りの確認などがスムーズに行われさえすればオンラインでの作業が充分に可能です。
この職種はクリエイターのセンスや感性に負うところが多いので、ツールやアプリに習熟すれば可能性は大きく拡がるかもしれません。
むしろ煩わしい人間関係や周囲の騒音に巻き込まれずに済む、自分のペースでどんどん作業を進められるのがいいという人も多いでしょう。
今後も制作の発注・依頼、入稿は、ますますオンライン上でやりとりがなされることは間違いなさそうです。
システムエンジニア、プログラマー
最もオンラインに特化した仕事として注目されるのがシステムエンジニアとプログラマーです。
コンピューターのシステムやアプリケーションの設計を行っているのがシステムエンジニア。
プログラマーはその仕様書に沿って、PCを動かすさまざまなシステムやソフトウェアを作るための「プログラミング」を行います。
用途は物流システムや金融システムだけではありません。
テレビやスマートフォン、スマホアプリ、家電製品など、あらゆるところでプログラムが活用されていますね。
システマティックな仕事ではありますが、開発を進めていく上では、制作の意図やコンセプトを理解して共有する事がますます必要とされるでしょう。
オンラインサービスも可能な業種
先生と生徒。教える側と教えを受ける側の難しい側面もありますが、やり方次第では充分にオンラインで業務進行が可能です。
スポーツ・ヨガインストラクター
インストラクターの仕事はジムやスクール、サロンで、手取り足取りアドバイスできる方法がいいのは間違いありません。
仮にオンラインで発信する場合は課題を修正したり、細かいアドバイスをするのが難しいため、基本をしっかりマスターした会員向けに限定されるでしょう。
どうしてもオンラインにこだわりたい場合には、一方的にならないような工夫やきめ細やかな仕組みが必須ですね。
逆にオンラインのほうが一定の距離感が保てるし、実際に指導を受けるより緊張しなくて済むという方も中にはいるかもしれませんね。
家庭教師
家庭教師も非常に難しい判断を迫られるところですね。
そもそもマンツーマンで教えるのが家庭教師の最大のメリットですから、オンラインで教えるとなると微妙な距離感が心配といえば心配です。
その場にいるように教えることができるのかということ……。
SNSとオンライン用会議ツールがうまく連携できるのであれば、お互いのスケジュールに合わせて利用するのも、気持ちの切り替えや移動時間や予算の軽減になるかもしれません。
塾・予備校講師
塾や予備校では、講師が収録した授業を学生が受講するという試みがかなり前から実施されてきました。
コロナ禍では授業がZoomなどのオンラインツールでリモート受講するというパターンも一般化されました。
今後どのように授業スタイルが推移していくのか定かではありませんが、リアルな授業をメインにオンライン方式も次第に定着していくかもしれませんね。
移動時間の短縮や授業料の多角化、生徒の適性に合わせやすい、ライトなコースが選べるなどで、オンライン授業ならではのメリットもあります。
これからのポイント
今後、リアルビジネスとオンラインビジネスを展開する上で課題になること、基本姿勢やポイントなどをまとめてみました。
リアルとオンラインの使い分け
今後、サービスを提供する際に重要なのがリアルビジネスとオンラインビジネスの使い分けが大切だということです。
やみくもに、この職業はオンライン、これはリアルと決めつけるのは片手落ちになる可能性もあるということですよね。
仕事を発注する場合もオンラインだけに偏りすぎるのは少々危険です。その人の人間性は実際に会って話をしないと伝わりにくいし、わからないからです。
ですからこれまで以上にリアルとオンラインの見極め、使い分けがビジネス成功の鍵にもなってくるでしょう。
リアルビジネスとオンラインビジネスをうまく連携させることで業務の効率化も見込めますし、無駄なエネルギーを排除することもできるかもしれませんね。
発想の転換で道が開ける
職種や働き方もここ数十年で大きな変貌を遂げてきました。
日本社会でも高度経済成長時代から続いてきた企業内の終身雇用や年功序列というサポート体制が崩壊しようとしています。
今は企業に所属したとしても、ひとりひとりが個人事業主だという自覚と意識を持つべき時代となりました。
そのように言えば、これからは明らかにオンラインビジネスが時代をリードしていくようにも感じるでしょう。
しかし前途洋々かといえば決してそんなことはありません。
デジタルコンテンツやサービスが巷にあふれるようになった現在、デジタルサービスでは人間味や温もりが決定的に不足するし、体感温度が低いという人もいますよね。
つまりリアルビジネスでなければ不可能なサービスが間違いなくあるし、なくてはならないビジネススタイルでもあるのです。
リアルビジネス、オンラインビジネスの双方にメリット、デメリットがあります。
一つの考え方や既成概念ではなく、これからは発想の転換や柔軟な発想が大いに求められことになるるでしょう。
大切なのはサービスの質
いつの時代でも大切なのが質の高いサービス。
お客様が心から満足していただくことに特化したサービスの提供です。
どんなに業務を合理的にしたり、低コストに抑えたとしても、絶対にサービスの質を下げてはなりません。
お客様を大切にしたいという発想、心から満足していただくための接客やサービスがあってこそ、信頼を獲得してリピーターが増えるのです。
とかくサービスを提供する側が陥りやすい過ちの一つに、「あまり利益にならない仕事だから簡単に合理的に処理しよう」という発想です。
お客様を介在しないサービスはそれでも良いのかもしれません。しかしお客様は敏感です。
態度や向き合う姿勢をちゃんと見ていますし、どのような気持ちで接してくれるのかを間違いなく感じとっています。
むしろ微々たる利益率の仕事であっても、それに真摯に向き合うと必ず何らかのリアクションがありますし、次の仕事への活路が自ずと開けてくるようになるのです。
商品、接客、サービスなどの総合力
現在はコロナ禍以前より、明らかに業務の棲み分けが進んでいるように実感します。
「商品がいい」、「ブランドが有名」……。どれかが抜きん出ていたとしても、今後はブランド力や知名度で売り上げを伸ばすのは難しい時代に入ったと言えるでしょう。
そこで注目されるのが「ユニファイドコマース」です。
ユニファイドコマースは「顧客の一人ひとりに「購入して良かった!」「生活が変わるかもしれない…」などのように、価値ある購入体験を提供するマーケティング手法」です。
店舗やオンラインなどで購入した顧客のデータを一元化して、きめ細やかなサービスを展開することですよね。
当然のことながら、「オンリーワン」「ワンツーワン」という発想のもと、個々の顧客について深く理解し、接客を丁寧にすることが求められます。
顧客を大切にしなければ、もはや振り向いてもらえなくなるということですね。
今後は商品の魅力はもちろんのこと、きめ細やかで丁寧な接客やサポートなど、顧客のわがままや要望にも対応できる体力やオリジナリティのあるサービスが大きな力となっていくでしょう!
まとめ
コロナ禍という大災難がありましたが、価値観の多様化、世代間のギャップ、少子高齢化などは、これまでの経営手法だけでは事業が立ち行かないことが明確になってきました。
少ない人材、低コストで最大限の効果をあげるためにはリアルビジネスとオンラインのメリットを理解して実践することが必要になるのかもしれませんね。
①オンラインで完結するビジネスでも、人間味や温もりが感じられるコンテンツを提示すべき。
②オンラインビジネス、リアルビジネス双方のメリットを使い分けることでビジネスチャンスが拡がる。
③リアルビジネスは業務の負担を軽減する上でオンラインサービスを上手に利用すべき。
④サービスの質は仕事の最大のポイント。心に寄り添う接客やサービスが願われる。
⑤店舗やオンラインなどで購入した顧客データを一元化して、顧客に対してあらゆる角度からきめ細やかなサービスを展開する。