難しい?敷居が高い? それでもクラシック音楽が魅力的な理由

クラシック音楽は他の音楽ジャンルと比較すると明らかに異質です。短くて美しいメロディの曲もあるかと思えば、難解な曲もあったり、とにかく啞然とするほどスケールの大きい曲もあるのがクラシック音楽……。

「それが嫌だ」という人もいれば、「だからこそクラシックは魅力的なんだよ!」という人もいますよね。

なぜ何百年もの間、クラシック音楽が人をひきつけてきたのか、その本当の魅力はどこにあるのか。クラシック音楽愛好歴・数十年の私がいくつかの例を挙げながら見ていきたいと思います。

目次

魅力的な理由① 波長の高さ

クラシック音楽は「波長が高い」とよく言われてきました。それではどのようなときに波長の高さを感じるのでしょうか?

生演奏はクラシック音楽の真髄

まずクラシック音楽の最初の出会いとして強烈な印象を残すのは生演奏での感動体験でしょう。どんなに録音技術が進歩して、音響効果が進化したとしても絶対に変わらないのが生演奏の魅力かもしれません。

特に交響曲、管弦楽曲などはダイナミックレンジが広いため、生演奏が持つ魅力は何倍にも膨らみます。

それだけではありません。弦楽器の上質のシルクのような柔らかな響き、木管楽器や金管楽器のまろやかで豊かな響きなどは生演奏に接することで得られる特権ですね。一度聴けば音の根源的迫力、響きの多様性など、多くの人の心を虜にしてしまうでしょう!

多彩なオーケストレーション
マーラー交響曲第7番・フィナーレ

α波と「ゆらぎ」

Surreal image related to piano music,song and melody.Beach and ocean in cliffs scenic landscape

脳波の一つでリラックスした状態のときに出やすいと言われるのがα波です。

α波には「1/fゆらぎ」という周波数の特徴があって、特に波の音、そよ風、小川のせせらぎ、小鳥のさえずりのような自然現象において多く見ることができます。一見規則的な音の動きのように聴こえますが、決して動きは一定ではなく、必ず不規則な「ゆらぎ」が混在するというのです。

この「ゆらぎ」が絶妙に働いているのも、クラシック音楽の特徴といわれていますよね。クラシック音楽をずっと聴いていると安心できる、心の奥底にスーッと響いてくるような肯定的な感情が芽生えるのも、「ゆらぎ」がもたらす特徴といえるでしょう。

人間は「ゆらぎ」をリラクゼーションとして心地よく思う感覚がすでに備わっているのです。これらが五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)に伝わり、身体のリズムと共鳴することで心地よさを実感するようになります。

癒やしのオーケストレーション
ラフマニノフ交響曲第2番・第3楽章

波長が高い

クラシック音楽は歴史的な背景をひもとくと、祈りや感謝、愛、寛容、希望、勇気などの人間の肯定的な感情や本質的な部分に共鳴するように作曲されていることが分かります。

仮にそれが哀しみを誘うテーマであったり、絶望的な内容であったとしても不思議と心慰められるのはなぜなのでしょうか……。おそらく品性や格調を保ちながら、人間の心の本質と通じあうものがしっかりと文化として根づいているからなのは間違いないでしょう。

歴史の荒波に埋もれずに今日まで受け継がれてきたのも意味がありますよね。

そのため聴く機会が増えたり、感動が集積されると、心にゆとりができ、知らず知らずに考え方や発想が高い境地に引き上げられる感覚を味わえるのも特徴といえるかもしれません。

清澄な声の饗宴が心地よい
デュリュフレ
・グレゴリア聖歌による4つのモテット

魅力的な理由② 創造性を高める

クラシック音楽は普通に「聴いて楽しむ」だけが魅力ではありません。

「音楽を再創造する」という意味での作品と演奏家の相性を聴くのも楽しみの一つだし、「作品に眠る表現の可能性を探る」という新境地の表現を体感することも大きな喜びの一つとなるでしょう。

どこまでもクリエイティブ

交響曲や協奏曲の作品は、必ずハ長調だったり、ニ短調などのように、音楽の雰囲気を醸し出す調性で成り立っています。

またアレグロ、アンダンテ、アダージョなどの速度の指定もあり、その他にもたくさんの技法や細かな決め事がありますね。これだけたくさんの指定や要素があるのはクラシック音楽だけです。これを見ても創造力を駆使した芸術であることが分かるでしょう。

しかもそれらは決して闇雲ではなく、すべてに意味があって法則性もあるのです。どこまでもクリエイティブと表現されるのはそのためでしょう。

ト短調の名曲 モーツァルト交響曲第40番

感性を刺激

マルタ・アルゲリッチ(Piano)

クラシック音楽を聴く醍醐味の一つに好きな作品と、それを指揮する指揮者や演奏家の相性を聴きとることがあります。つまり、作品に対してどのようにアプローチするのか、どのような音楽づくりをするのだろうかという予測を立てながら聴く楽しみがあるのです。

たとえばショパンやチャイコフスキーなど、センシティブでアグレッシブなピアノ演奏をしたら右に出るものがいないとも言われるマルタ・アルゲリッチが、ベートーヴェンを弾いたらどうなのだろう…。

マーラーの交響曲を指揮すると、どれも惹き込まれるバーンスタインの解釈は、ベートーヴェンを振るとどんな演奏になるのだろうか……。このように想いをめぐらしながらクラシックを聴くことはある意味最高の贅沢であり、楽しみが尽きることがありません。

マーラー交響曲第2番・フィナーレバーンスタイン指揮

仮に予想に反して結果が良くなかったとしても、かえってクラシック音楽の奥の深さや面白さを感じるきっかけにもなるでしょう。

再創造の喜びを感じられる

「再創造の喜びを感じられる」って何のこと? 不思議に思うかたも少なくないかもしれませんね。

皆さんはさまざまな指揮者やピアニスト、ヴァイオリニストたちの演奏などから身震いするような感動体験をすることがあるでしょう。それと同時に作品を深く理解するようになると、当然のように作品に対する自分なりの美意識が芽生えたり、理想の演奏を求めるようになります。

「自分だったら第1主題はこんなふうに表現したいな」とか、「もっとこのメロディは歌わせたい…」などのように、演奏を通じて再創造の喜びを味わえるようになるのです。このような感覚が自然と身につくと、交響曲や協奏曲など聴くのが面白くて仕方なくなるでしょう!

魅力的な理由③ ストーリー性

複数楽章の起承転結

一般的に小説には起承転結があり、ストーリー性に富んでいると言われます。クラシック音楽にもそれに似たストーリー性があるのは間違いないでしょう。

たとえば交響曲は複数楽章で成り立っていて、それぞれの楽章に問題提起から結末に至るまで意味があります。もちろん単一楽章としても作品としてしっかり成立しているので、それなりに聴きごたえがありますよね。

しかし最初から最後まで聴き通すことで、作曲家が言いたかった壮大な構想が肌で感じとれて感動が何倍にも膨らんでいくのです。

交響曲、協奏曲、室内楽曲、ピアノソナタなど、複数の楽章から構成される音楽は人生の縮図のように、さまざまな展開や発展が凝縮されていて、フィナーレに至るまでのワクワク、ドキドキが満載なのです。

世相が作品に反映する

Eugène Delacroix’s Liberty Leading the People, painting commemorating the French Revolution of 1830
Original public domain image from Wikimedia Commons

クラシック音楽と他の音楽ジャンルとの大きな違いは、一つの作品に込められた歴史的な背景との関わりや密度の濃さにあるかもしれません。君主や法王などに作品が捧げられた経緯を持つクラシックは、音楽界だけにとどまらず、社会全体に波及する影響も大きかったのだといえるでしょう。

中でもベートーヴェンは宮廷文化の崩壊、フランス革命の勃発などのような、社会体制の激変を目の当たりにしながら作曲活動を行ってきました。

音楽は人々の精神から炎を打ち出さなければならない。

音楽は、一切の智慧・一切の哲学よりもさらに高い啓示である。

ベートーヴェンの生涯/ロマン・ロラン著・片山敏彦訳

一連の作品が古典派からロマン派へ、構造的にも、音楽的にも飛躍的な発展をするようになったのはベートーヴェンの功績が大きいといえるでしょう……。

20世紀のドイツの大作曲家アルバン・ベルクは密度の濃い無調音楽を書いた人として有名ですが、作品の数が少ないことでも有名でした。それだけ一つの作品に費やすエネルギーが尋常でなかったともいえるでしょう。

オススメしない楽しみ方

次にクラシック音楽を聴くときに「オススメしない楽しみ方」と、「オススメの楽しみ方」をあげてみました。まずは「オススメしない楽しみ方」から。

教養として聴く

クラシック音楽を「教養として聴く」という人もいますが、私はあまりオススメできません。なぜならクラシック音楽はそもそも教養ではないからです。

音楽を楽しむために作品の背景や誕生のルーツなどを知るのは大切だと思うのですが、教養として聴くと何も楽しいことがありません。知識や理屈が先行してしまうため、次第に嫌になって聴くのをやめてしまうでしょう。

名曲の評判が高い作品のみを聴く

時計や洋服のブランドがあるように、クラシック音楽も一般的に評価が定まった名曲、名盤の誉れ高い演奏ばかりを聴くという人もいます。最初から高度な作品に挑戦して「クラシックは断念した」という人もたくさんいますよね…。

音楽を楽しむきっかけとしてはこれはこれでいいと思うのですが、何度も言うように音楽は理屈ではありません。映画の中で気になった曲、ドラマの中で流れた曲など、クラシック音楽に入っていくきっかけは何でもいいのです。人は関心のあること、好きなものからしか入っていけませんから……。

専門用語で書かれた解説を読む

コンサートのチラシに書かれた作品解説は意外と初心者にも分かりやすいように書かれています。

しかしWebや書籍の作品解説を眺めると、最初から最後まで音楽の専門用語で書かれていてチンプンカンプンということが往々にしてあります。もちろん専門用語を使わないと噛み砕けないということもあるからなのでしょう。

ただしこれからクラシック音楽をどんどん聴いていきたいという人にとって難しい解説は逆効果です。それよりはYouTubeなどで該当する曲があれば、それを聴いて作品のイメージをつかんだほうがはるかに効果的でしょう。

偏見を持つ

クラシック音楽の理解を狭めるものが「偏見を持つ」ことです。これはクラシック音楽に限ったことではありません。芸術全般にあてはまると考えてもいいでしょう。絵もそうですし、映画でもそうです。もっと柔軟な発想、受けとめ方をしないと、せっかく眼の前に傑作があるのに心に響いてこないということになりかねません。

たとえば「モーツァルトのクラリネット協奏曲は必聴だが、ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲は聴くに値しない」などのように専門家筋の評価、一般の評価を真に受けすぎて極端な「食わず嫌い」をする人です。

これはあまりにも勿体ない話です。さまざまな作曲家の音楽に触れて、自分の趣味、趣向にあう隠れた名曲を発掘してみましょう。音楽観にも大きな拡がりが出てくることになりますし、自分だけの名作、名演奏を持つというのは妙にうれしいものです…。

オススメの楽しみ方

サブスクを利用する

現在はサブスク(定額制の音楽配信サービス)で音楽を楽しむ人が多いのではないでしょうか。ここでは詳しく書きませんが、サブスクのメリットは以前の投稿でも挙げたように音楽を聴く楽しみが無限に拡がることです。

これまであまり触れてこなかった音楽ジャンルに触れるきっかけになるかもしれませんよね。そのような意味でもサブスクとクラシック音楽の相性は抜群といえるでしょう。

定期的に生演奏に接する

ライブ演奏は「一期一会の音楽体験」と言う人もいますし、録音では伝わらない一体感を共有するのが楽しいという人もいます。

特にクラシック音楽の場合は定期的に生演奏に接することで、楽器の本来の響きの美しさを堪能できるのがいいですよね。また、感性の充電ができるのも素晴らしいことだと思います。実演でしか味わえない空気感や感動を共有することも格別でしょう。

大切なのが、コンサートホールで生演奏を聴くときに、どのあたりの席が音がよく響くかということにも注意を向けなければなりません。チケット購入する際は必ずチェックしてみましょう。

イベントを利用する

METライブビューイング/ビゼー:カルメン・予告編

最近はクラシック音楽を幅広い年代に普及するため、さまざまなクラシック音楽イベントが開催されています。

ゴールデンウィーク期間中にさまざまな作曲家やジャンルをテーマにプログラムが組まれる「ラ・フォル・ジュルネ東京」や、桜の季節に開催される上野公園エリアを主会場にする「東京・春・音楽祭」が有名です。

イベントごとに特徴があり、対象や料金設定もさまざまです。あなたにピッタリのイベントを探してみましょう!

またオペラは日本での公演が少なく、料金設定も高くてなかなか手が出ないという方も少なくありません。そんな方には映画館の音響と映像を徹底的に駆使したメトロポリタンオペラ・ライブ・ビューイングがいいでしょう!

鑑賞環境を整える

「ポップスやロックの曲だと安価なヘッドホンでも大抵は満足するのに、クラシックだと全然物足らない……」こんな経験をされたことはないでしょうか?

それは音が窮屈になってしまうと、音楽としての魅力がかなりの割合で削がれてしまうからなのです。作曲家が訴えたい大切な音の表情が消えてしまう恐れがあるといってもいいでしょう。

特にピアニッシモからフォルティッシモまで、音の強弱や音のディテール、質感など、音域の幅が広いクラシック音楽はしっかり環境を整えてから鑑賞するのがいいでしょう。

まとめ

皆さんはクラシック音楽の面白いところはどこにあると思いますか?

私は蓋を開けてみないと分からないワクワク感(ドキドキ感)ではないかと思います。だからライブで超絶的な名演奏に遭遇すると、観客は万雷の拍手でアーティストを称え、アンコールの要求やスタンディングオベーションで応えるのです!それが同じ演奏は二度とないといわれるクラシック音楽の醍醐味であり、魅力なのかもしれませんね。

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